不動産を売却して利益が出た場合、その利益は所得としてみなされるため、確定申告をして納税する必要があります。普段は会社勤めなどにより自分で確定申告をしない方でも、不動産を売却した際には確定申告をしなければなりません。今回は、確定申告に関する基礎知識や税額の計算方法などをご紹介しますので、確定申告をする時の参考にされてください。
目次
不動産売却後に確定申告は必要?
確定申告とは、1月1日から12月31日までの間に生じた所得の合計金額を税務署に申告し、税金を納めることを言います。確定申告は、年間の収入が確定した後、原則として翌年の2月16日から3月15日までの間に行います。個人事業主の場合は毎月の所得が一定でないため、1年間の収入が確定するのを待ってから確定申告をして納税をするのです。会社員であれば、給与以外の収入が無い限り会社が年末調整の手続きをするため、個人で確定申告をする必要がなく馴染みのない手続きでしょう。
では、不動産を売却した時は確定申告をする必要があるのでしょうか。答えは「個々の状況ごとに異なる」となります。売却をして利益が出た場合と損失が出た場合に分けて考えてみましょう。その後に、売却益が出たのにもかかわらず確定申告を怠った場合、それから確定申告の内容に誤りがあった場合の注意点を見てみましょう。
<売却をして利益が出た場合>
不動産を売却したことで売却益(譲渡所得)が出た場合、その利益は給与所得や事業所得とは別の所得としてみなされるため、個別に確定申告をして納税する必要があります。譲渡所得は、売却代金から不動産を取得したときにかかった費用や売却したときにかかった費用を差し引くことで求められます。この譲渡所得がプラスになった場合、その譲渡所得の額に応じで所得税と住民税、それから2037年(令和19年)までは復興特別所得税(所得税の2.1%)が課せられます。これらの譲渡所得にかかる税金を合わせて譲渡所得税と呼びます。
売却した不動産がマイホームであった場合は、一定の要件を満たす場合に限られますが、特例や特別控除を活用できる可能性があります。例えば、譲渡所得から最大3,000万円を控除することによって課税対象になる譲渡所得額を減らすことができる特例や、所有年数が10年を超えるマイホームを売った場合の軽減税率の特例、マイホームの買い換えを行なった場合に譲渡所得税の納付を先送りできる特例などがあります。このような特例が活用できれば譲渡所得税の額を少なくすることができるため、売却予定の不動産に当てはまりそうな特例がないか事前に情報収集しておきましょう。詳細は国税庁のページをご覧ください。
*参照
国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
国税庁「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3305.htm
国税庁「No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3355.htm
<売却をして損失が発生した場合>
不動産を売却したことによる売却益(譲渡所得)がゼロもしくはマイナスになり譲渡損失が生じてしまった場合は、必ずしも確定申告をする必要はありません。ただし、売却した不動産がマイホームである場合は、売却によって損失が発生した場合でも確定申告をすべきです。なぜなら、売却した不動産がマイホームであれは、一定の要件を満足す場合に限り「損益通算」と「繰越控除」の特例の適用を受けられるため、所得税を大幅に減らすことができるからです。
損益通算とは、不動産の売却によって発生した譲渡損失の額を、給与所得や事業所得などの他の所得と相殺して所得税を減らすことを言います。もしその年の所得でも譲渡損を消化できない場合は、譲渡した年の翌年から最大3年間は繰り返し損益通算を行うことができます。このことを繰越控除と言います。ちなみに、この特例は確定申告をしないと受けることができないので、譲渡損失が出ても必ず確定申告を行うようにしましょう。もし確定申告をしないのであれば、損失額分が控除されない状態で翌年の所得税を余分に払うことになりますので、注意が必要です。
特例の適用を受けるための要件ついては、例えば、マイホームを譲渡した年の1月1日の時点での所有期間が5年を超えるものであること、償還期間10年以上の住宅ローン残高があること、前年そして前々年に他の特例の適用を受けていないこと、譲渡する相手が直径血族、生計を一にする家族、同族会社などではないことなどの要件があります。詳細は国税庁のページをご覧ください。
*参照
国税庁「No.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3370.htm
国税庁「住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき(特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3390.htm
<売却益が発生したのに確定申告を行わなかった場合>
譲渡所得があるのにもかかわらず、確定申告を期限までに行わなかった場合、期限後申告として扱われ納税すべき税金に加えて無申告可算税と延滞税が課せられます。
無申告加算税とは、期限までに確定申告しなかった場合、納付する税額に対して、50万円までは原則納付すべき本税額の15%、50万円を超える部分には20%の割合で加算される税です。税務署から指摘される前に自主的に期限後申告をした場合は税率が5%に軽減されます。一方、故意に確定申告を行わなかった場合や所得を隠蔽した場合は重加算税が課せられ、税率が35%〜40%になります。
また、納付期限までに税金を納めなかった場合は延滞税の支払いが課せられます。延滞税の税率は、納付期限の翌日から実際に納付する日までの日にちによって変わってきます。納付期限の翌日から2ヶ月を経過する日までは原則納付すべき本税額の7.3%、納付期限の翌日から2ヶ月を経過する日の翌日以降は14.6%の罰金が課せられます。
<申告内容に誤りがあった場合>
確定申告期限内に誤りに気ついた場合は、再度申告書を作成して申告期限までに提出すれば、ペナルティもなく正しい確定申告書が受理されます。一方、申告期限後に誤りに気づいた場合は、本来納付すべき額より多く申告してしまった場合と少なく申告してしまった場合によって対応の仕方が違ってきます。多く申請してしまった場合は、法定申告期限の5年以内であれば「更正の請求書」を提出して正しい税額への訂正を求めることができます。少なく申請してしまった場合はできるだけ早く「修正申告」をしましょう。修正申告の場合は、不足している税金を追加で納付するほか、確定申告の期限日から修正申告を行なった日までの延滞税も追加で納付しなければなりません。さらに、税務署の調査を受けた後で修正申告をした場合は、ペナルティとしてさらに納税額の5〜15%が過少申告加算税として課税されます。
確定申告に必要な書類
確定申告に必要な書類には、税務署で入手できる書類と自分で用意しなければならない書類があります。以下にまとめましたので確認してみましょう。
<税務署で入手できる書類>
書類名 | 内容 |
---|---|
申告書B第一表、第二表 | 土地・建物を売却した場合に使用する書類。 |
申告書第三表 (分離課税用) | 土地・建物の譲渡で発生した利益は給与所得や事業所得とは分離して課税されるため、分離課税用の書類を使用する。 |
譲渡所得の内訳書【土地・建物用】 | 売却した不動産の所在地や面積、売却金額、費用などの情報を記入する書類。譲渡所得金額の計算用に使用する。 |
ちなみに、これらの用紙は国税庁の公式サイトからもダウンロードできます。国税庁が提供しているe-Taxサービスを利用してインターネット経由で確定申告をするのであれば、書類は入手する必要はありません。
<自分で用意する書類>
書類名 | 内容 |
---|---|
売買契約書のコピー | 不動産を購入した際とその不動産を売却した際のもの両方が必要になる。購入金額と売却金額の証明として使用する。 |
譲渡した不動産の全部事項証明書 | 確定申告前の3ヶ月以内に入手したもの。 |
領収書のコピー | 売買代金、仲介手数料、測量費、登記費用、固定資産税の精算書など、取引にかかった費用の領収書。不動産を購入した際にかかった取得費用とその不動産を売却した時にかかった譲渡費用の証明として使用する。 |
不動産売却にまつわる各種特例の適用を受ける場合には、その特例ごとに追加で提出する書類があります。
譲渡所得税の計算方法
確定申告に必要な書類の準備ができたら、次は実際に譲渡所得税額を計算してみましょう。譲渡所得税額を算出するには、まずは譲渡所得の金額を求める必要があります。もし特例の適用を受けられる場合は、譲渡所得から特例控除額を引いて課税譲渡所得を算出します。その課税譲渡所得に税率を掛けたものが納付する税金の額になります。なお、譲渡所得がゼロもしくは譲渡損失が発生した場合は、譲渡所得税を納める必要はありません。
<譲渡所得税を求める計算式>
まずは、譲渡所得がどれくらいあるのかを計算します。譲渡所得を求める計算式は以下の通りです。
譲渡所得 = 譲渡価格 − 取得費 − 譲渡費用
- 譲渡価格:売却額+固定資産税など清算金
- 取得費:売却した不動産の購入費用+仲介手数料など購入時にかかった諸費用
※不明の場合は譲渡価格の5%で算出する。建物の場合は所有年数に応じて減価償却を差し引きする。 - 譲渡費用:仲介手数料など売却時にかかった費用
なお、特別控除の適用があれば、上記で算出した譲渡所得からその分を差し引きます。譲渡所得を求める計算式は以下の通りです。
課税譲渡所得 = 譲渡所得 − 特別控除
- 特別控除:一定の条件を満たす場合に受けられる特別控除。マイホームを売却した時に利用できる3,000万円特別控除など。
以上の式で算出された課税譲渡所得に税率を掛け合わせたものが、不動産を売却して利益が出た場合に支払わなければならない譲渡所得税の金額になります。
譲渡所得税 = 課税譲渡所得 × 税率
<譲渡所得にかかる税率>
譲渡所得税の税率は、不動産を売却した時点においてその不動産をどれくらいの期間所有していたか、そしてその不動産がマイホームであったかなどによって異なります。譲渡した年の1月1日現在で所有期間が5年以下の場合は「短期譲渡所得」となり39.63%が、5年を超えていれば「長期譲渡所得」となり20.315%が課せられます。
例えば、2015年の9月1日に購入した不動産を2020年の10月1日に売却した場合、カレンダー上の所有期間は5年1ヶ月になりますが、譲渡した年の2020年1月1日の時点での所有期間は4年4ヶ月になります。この場合は短期譲渡所得が課せられます。このように、所有期間のカウント方法を知らないまま売却してしまうと、大幅に損をしてしまう可能性もありますので注意が必要です。
長短区分 | 短期譲渡所得 | 長期譲渡所得 |
---|---|---|
所有期間 | 5年以下 | 5年超 |
税率 | 所得税:30.63% (うち0.63%は復興特別所得税) 住民税:9% 合計:39.63% | 所得税:15.315% (うち0.315%は復興特別所得税) 住民税:5% 合計:20.315% |
売却した不動産が居住用財産(マイホーム)であれば、所有期間が10年を超えるなど一定の条件を満たす場合は軽減税率の特例を活用することができます。この軽減税率はマイホームを売却した時に利用できる3,000万円の特別控除と併用できます。なお、表の譲渡所得は3,000万円特別控除の適用後のものになります。
譲渡所得 | 6,000万円以下の部分 | 6,000万円を超える部分 |
---|---|---|
税率 | 所得税:10.21% (うち0.21%は復興特別所得税) 住民税:4% 合計:14.21% | 所得税:15.315% (うち0.315%は復興特別所得税) 住民税:5% 合計:20.315% |
確定申告の提出方法
確定申告書が作成できたら、税務署に提出します。自分で申告することもできますし、税理士に依頼して申告することもできます。税理士に依頼する場合は、確定申告にかかる時間や手間を省くことができ、さらに正確な内容で申告してくれるので申告内容にミスがあるかどうか心配することはないでしょう。ただし、相場で10~20万円程度の報酬を支払う必要があります。
一方、自分で申告する場合、申告書の作成に時間がかかったり申請自体を煩わしく思ったりすることもあるかもしれません。そのような場合は、国税庁が作成している「確定申告の手引き」をご利用ください。確定申告に関する情報や記入例などが確認できます。自分で確定申告をする場合は、以下の3つの方法があります。
<確定申告会場へ直接持ち込む>
確定申告書を自分で作成して、期間中に税務署や市区町村の庁舎に設置された臨時会場に持ち込みます。会場でスタッフの説明を受けながら申告書を作成することもできます。また、確定申告の時期には、会場で税理士による無料相談が行われている場合もあります。費用を抑えたいけれども一人での申請に不安を感じている場合は、このような機会を利用するとよいでしょう。
<e-Tax>
オンラインで申告手続きができる「e-Tax」というサービスもあります。自宅で空いた時間に申告できるため、平日に確定申告会場に行く時間が取れない方には便利な方法です。国税庁の「確定申告書作成コーナー」ページより、「e-Taxで提出」を選択します。e-Taxでは画面案内に従って入力するだけで納税額が自動で計算されるため、簡単に申告書が作成できます。税金の還付も申告から2~3週間と他の申告方法に比べ早くなっています。なお、e-Taxの利用には、マイナンバーカードをICカードリーダライタもしくはスマートフォンで読み取るか、税務署で発行されたIDとパスワードが必要になりますので、事前準備が必要です。
<郵送>
税務署や国税庁のホームページより申告用紙を入手して申告書を作成し、所轄の税務署へ送付します。もしくは、e-Taxと同様に国税庁の「確定申告書作成コーナー」ページより「印刷して提出」を選択し、画面上で申告書を作成後、出来上がったものを印刷して送付することもできます。e-Taxのようにマイナンバーカードを読み取ったり、IDとパスワードを入力したりすることなく利用できます。
まとめ
今回は、不動産売却に関わる確定申告についての知識をご紹介しました。売却によって譲渡益が出た場合はもちろんのこと、譲渡損失が出た場合でも特例により税金を抑えることができる可能性があるため、必ず確定申告をするようにしましょう。確定申告には期日があり、準備しなければならない書類も多くあります。期限ギリギリになって焦らないでいいように、早め早めの行動を心がけましょう。