不動産は高額な買い物です。一生のうちに不動産売買を何度もすることは滅多にないでしょう。そのため、いざ所有する不動産を売却しようと思い立っても、何から始めればいいのかわからず、不安になることもあるでしょう。不動産売却を成功させるためには、不動産会社に頼りっぱなしではなく、自分でも情報を収集し、きちんとした知識を身につけておくことが大切です。ここでは、不動産売却を始めるための第一歩として、売却に必要な心構えや事前に知っておきたい基礎知識をご紹介します。
目次
不動産を売却する理由
不動産は、生活スタイルや家族構成、経済状況の変化などに合わせて売買されています。国土交通省が作成している資料「土地保有移動調査結果」では、1年間に全国で行われた不動産売買の目的や理由などに関する情報が提供されています。そこでは、「生活費に当てる」、「建設資金購入資金」、「買主等の希望」、「事業用資金」などが主な売却理由として挙げられています。
不動産は高額なため、せっかく購入したものを売却するというのはなかなか考えにくいかもしれません。しかし、売却によって得られるメリットが多いうちに行動に移してしまうのも、賢い選択肢の一つです。どうして不動産を売却したいのか、その理由を明確にすることで、売却の方針などイメージしやすくなるでしょう。具体的な例をいくつかご紹介します。
住み替えのために売却する場合
家族が増えたので広い家に引っ越したい、今の家は老朽化が進んでいるため新築に住み替えたい、通勤により便利な場所に移りたい、マンションから庭付き一戸建へ引っ越したい、など住み替えを考える機会もあるでしょう。住み替えの場合は、現在所有している物件の売却と新たな物件の購入の時期をどのように調整するかがポイントになります。売却と購入を並行して行うのか、それとも売却を先に行うのか、はたまた購入を先に行うのかは、自分の置かれている状況や所有している不動産の価値などを見極めた上で、十分な知識や情報をもとに判断しましょう。
相続した不動産を売却する場合
譲り受けた不動産を活用していない場合は、売却という選択肢もあります。不動産は所有しているだけでも税金がかかるため、余計な税金を抑えるためにも売却は有効な手段になります。相続した不動産を売却するには、相続登記が必要になります。相続登記とは、相続に伴い、不動産登記簿上での所有者の名義を変更する手続きのことです。不動産を売却できるのは不動産登記簿上の所有者のみのため、この手続きを怠ると、いざ不動産を売却しようと思い立った時に困ったことになるかもしれません。もし相続した不動産を将来売却する可能性があるならば、相続した時に相続登記も済ませてしまうのがベストです。
早急に売却する必要性がある場合
ローンの返済が難しくなったり生活費を工面する必要性が出てきたりして、所有する不動産を売却することに決めたのであれば、できるだけ早く現金化したいですよね。このような場合、不動産会社に直接不動産を買い取ってもらう「買取り」という手段も利用できます。買取りを選択するメリットは、やはり不動産を早く現金化できるということでしょう。不動産会社に仲介を依頼して不動産を販売する場合、売却までに概ね半年ほどかかります。一方、買取りは1ヶ月ほどで売却が完了します。また、住み替えが理由で売却を検討している場合は、買取りを選択することによって、住み替え先を購入する資金をあらかじめ手にしておくこともできます。注意しておきたいのは、買取りは相場価格よりも1~3割ほど安くなる可能性があるということです。メリット、デメリットをきちんと理解した上で検討しましょう。
他にも「リースバック」と呼ばれる手段があります。リースバックとは、不動産会社に買い取ってもらった物件に、不動産会社と賃貸契約を結んで住み続けることです。そのため、「医療費や事業資金などのまとまった資金を工面するため自宅を売却することにしたが、できればその後も自宅に住み続けたい」というような場合は、リースバックを検討してみるのもいいでしょう。ちなみに、リースバックで売却した物件は将来買い戻すことも可能です。
不動産売却を成功に導くためには
不動産を売却する際、少しでも高い価格で、できるだけ時間をかけずに売却できれば嬉しいですよね。理想に少しでも近い形での売却を望むのであれば、事前に情報を収集し、ある程度の知識を身に付けておくこと、そしてしっかりとした売却計画を立てることがポイントになってきます。
初めて不動産を売却するのであれば、知識が少ないのは当然のことです。しかし、わからないからと言って不動産会社に丸投げしてしまえば、売却活動が長引いたり、理想の売却価格よりも低い価格で売却せざるを得なくなったりする可能性もあります。そのようなことがないように、自分でも情報を収集したり知識を習得したりしながら、後悔を残すことなくより良い取引ができるよう、売却活動に積極的に関わっていくことが大切です。
また、売却資金を他の用途に使うことを計画している場合、学校や職場の都合で引っ越しの時期が限られている場合など、売却に期限がある際は、事前にしっかりとした計画を立てておくことが重要です。時間的にも精神的にも余裕のある売却ができるよう、十分な売却期間を確保したスケジュールを立てましょう。
不動産を売却するための基礎知識
不動産売却を成功に近づけるためには、どのような知識が必要なのでしょうか。ここでは、事前に知っておきたい基礎知識をいくつかご紹介します。
1. 不動産売却の大まかな流れと期間について
所有する不動産を売却することが決定したら、まずは売却の流れを把握しておくことが大切です。また、それぞれの段階で、大体どれくらいの期間が必要になるのか知っておくことも重要です。大まかな流れと期間を把握しておけば、売却に向けての準備もしやすくなり、計画も立てやすくなります。ただし、売却にかかる期間は、不動産の種類や売り出しの条件、買い手が見つかるまでの時間などによって変わってきます。そのため、売却することが決まったら早めに行動し、余裕を持って売却できるようにしましょう。
売却前 | 売却活動中 | 売却後 |
・事前準備、情報収集 ・不動産査定 ・不動産会社との媒介契約締結 ・売却活動の開始 (目安:1~4週間) | ・見学客の受け入れ ・購入希望者との価格交渉 ・購入者との売買契約締結 (目安:1~3ヶ月) | ・手付金の受領 ・物件の引き渡し (目安:1~2ヶ月) |
2. 不動産査定について
不動産査定とは、不動産仲介会社などに依頼し、自分の所有している不動産がどのくらいの価格で売却できそうかを算出してもらうことです。一括査定を利用すれば、複数の不動産仲介会社からの査定が入手できるので、様々な意見を知るのに役立ちます。不動産一括査定サイトを利用すれば無料で査定してもらえますし、不動産会社に直接依頼することでより精密な査定を出してもらうことも可能です。一方、自分で不動産の周辺相場を調べておくことも大切です。所有する不動産に買い手がつきやすい価格を事前に知ることで、売却による利益イメージがしやすくなります。このような査定価格や相場価格は売り出し価格を決定する際に参考になるので、自分の希望と上手くバランスをとりながら売り出し価格を決定しましょう。
<不動産相場検索に利用できるウェブサイト>
土地総合情報システム(国土交通省)(https://www.land.mlit.go.jp/webland/)
レインズマーケットインフォメーション(国土交通大臣指定の不動産流通機構が運営)(http://www.contract.reins.or.jp/search/displayAreaConditionBLogic.do)
3. 不動産会社との媒介契約について
不動産を売却する際、一般的には不動産仲介会社と媒介契約を結び、買い手を探します。そのため、売却のパートナーとなる不動産仲介会社探しはとても重要になります。査定額が一番高かったからといって、その仲介会社が最良のパートナーであるとは限りません。売却を成功させるためには、依頼先をよく検討し、信頼できる良い会社を選ぶことが大切です。
また、仲介会社と結ぶ媒介契約の種類については、希望する売り出し価格や売却時期、買い手に心当たりがあるかどうかなどを考慮に入れて選択することをオススメします。できるだけ早く売却したい場合は、一社とだけ結ぶ「専属専任媒介契約」もしくは「専任媒介契約」がよいでしょう。不動産会社は3ヶ月の契約期間内に買い手を見つけようとするので、比較的早期に買い手が見つかりやすいです。一方、できるだけ希望する価格で売却したい場合は、複数社と結べる「一般媒介契約」がオススメです。契約に有効期限がないため、買い手を探すのに時間がかかる可能性はありますが、より多くの買い手にリーチすることができるでしょう。
4. 法令による制限について
不動産は、都市計画法や建築基準法などの様々な法令に基づく制限を受けています。つまり、土地のある場所によって、その土地で建築できる建物の種類や建ぺい率、容積率、高さなどに対する制限が変わってくるのです。さらに、土地によっては道路との関係で建築ができなかったり、希望通りの規模やプランでは建物が建てられなかったりすることもあります。そのため、せっかく所有している物件を解体して更地を売却しようとしても、その土地が再建築不可の土地(再建築不可物件)であれば、買い手から敬遠されることもあります。ただ、再建築不可能物件でも再建築可能にできる場合はありますし、再建築不可能物件であっても売る方法はあります。ぜひ専門家に相談してみてください。
5. 不動産売却に必要な費用や税金について
不動産を売却するにあたり、様々な諸費用が発生します。主なものとして、仲介手数料、登記費、測量費用、解体費用、クリーニング費用、引っ越し費用などが挙げられます。さらに、不動産売却時に利益が出た場合、その利益は所得としてみられるため、印紙税や譲渡所得税、住民税などの税金もかかってきます。そのため、所有する物件の売却価格よりも新たな物件の購入価格が低かったからといって、安心はできません。事前にどれくらいの費用がどのタイミングで発生するのかを把握しておけば、資金繰りに困ることは少ないでしょう。
6. ローンが残っている場合の売却について
住宅ローンの返済中でも、所有している不動産は売却できます。その場合、引き渡し日までにローンを完済していることが条件になります。住宅ローンを組む場合、一般的には、金融機関は不動産に抵当権を設定します。抵当権とは、不動産の所有者がローンを返済できなくなった場合に、金融機関がその不動産の所有者となり、不動産を競売にかけ資金を回収できるという権利です。そのため、抵当権が設定されている不動産を売却する場合には、住宅ローンを完済し、抵当権の設定を抹消登記する必要があります。もし引き渡し日までにローンが完済できていなければ、引き渡しができなくなり、売買契約解除や違約金の対象となる可能性も出てくるので注意が必要です。
ローンの残債よりも高い価格で不動産を売却できれば、売却代金でローンを完済後、不動産に設定されている抵当権を抹消登記して買主に引き渡すことができます。しかし、売却額が想定していた額よりも低くローンが残ってしまった場合は、不足分を補う必要があります。自己資金で充当できれば理想的ですが、他にも「買い替え(住み替え)ローン」や「任意売却」という方法があります。「買い替え(住み替え)ローン」とは、売却する不動産の残債分と、新しく購入する不動産の購入代金をまとめてローンを組むやり方です。「任意売却」とは、保証会社が売主の代わりにローンの残債を支払い、売主は保証会社に無理のない返済をしていくというやり方です。さらに、不動産の売却で損失が出た場合に受けることができる税制の優遇措置もあります。
このように、住宅ローンを返済中でも売却は可能ですが、引き渡しまでに完済できるようにきっちりと計画を立てておくことが大事です。ローン残債が自己資金で補えない場合の買い替えローンや任意売却という方法は、最終手段として考えておきましょう。
まとめ
一生のうちに不動産売買を何度も経験する人は少ないでしょう。しかし、もし所有する不動産を売却することになった場合は、事前に情報を集め、ある程度の知識を身につけておくことで、トラブルや後悔のない売却につなげることができます。より良い条件で取引を成立させるためにも、準備段階から引き渡しまで、自ら積極的に取り組む姿勢が大切です。